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2005年09月14日

ブックレビュー「脳はなぜ「心」を作ったのか」

脳はなぜ「心」を作ったのか」(著:前野 隆司)を読みました.
250ページくらいある本だけど,ほとんど一日かからずに読んでしまいました.
つまり,それだけ自分には目新しくない内容と,乱暴な論を展開している本に感じられたということだけど…

この本では帯に「心の謎がついに解けた?!」と書かれていて,本の中でも「自分のこの考えに従えば心を持ったロボットなんかすぐにできる」みたいな自信たっぷりのことが随所に書かれているけれども,全体を通してもどこか肝心な部分が書かれていない内容です.

たとえば「意識自体が,無意識に脳の中で小人たちが処理した情報の作り出した錯覚に過ぎない」といった感じに書いてある.
けどこの話だけでも「小人」がよくあるホムンクルスを指しているように一瞬思えてしまう内容だし(実際には多分神経細胞なんかを喩えているんだろうけど),そもそも脳内のニューロンの活動がさまざまに相互作用をして心を生み出していると言っているだけであまり目新しさも感じられない.
それに,「心」が感じていることは無意識の処理の結果が意識に渡されたから意識にのぼるんだという話では,それじゃあどうやって無意識の処理から意識にのぼる内容が選び出されているんだという根本的な解決になっていない.

本の中ではいかにも簡単そうにニューラルネットがすべて解決してくれる万能な方法のように書かれているし,「だったら実物作ってくれよ.それができないからみんな苦労して脳とかロボットとかで研究してるんでしょ?」と思うばかりです…
周りのヒトからもみんな不評だったのでどんな内容か気になって読んでみたけれども,なるほど確かに,読むことはあまりお勧めできないです(´・ω・`)

2005年9月18日追記

前野氏のHPでこんなページを見つけました.
そこのQ&Aで以下のくだりがあったので一部転載.

本書を注意深く読んでいただくとわかると思いますが,私は,心の問題を解いた,と言っているのではなく,受動的な意識という考え方にしたがえば,これまで漠然と謎だと考えられていた「難しい問題(ハードプロブレム)を,たくさんの難しくない問題(容易に解ける問題)に整理しなおしたと言っているつもりです。
<中略>
ただし,「もはや、最大かつ手の届かない謎だというほどのものとは言いがたい」と考えており,クオリアを表示するロボットを作ることによってこの問題の回答例を近い将来示したいと思っています。
<中略>
ただ,本書のサブタイトルに「私の謎を解く」と書きましたし,第3章のサブタイトルにも「意識の3つの謎を解く」と書きました(さらに,本の帯には,心の謎がついに解けた!?と書いてあります)ので,あたかも心の謎がすべて完璧に解けると言っているかのような誤解を与えたかもしれません。そうではなく,上にも述べたように,漠然としていたひとつの「難しい問題」をたくさんの「難しくない問題」に分けて理解する方法を示したのだ,ということをご理解いただければ幸いです。

だ,そうです.
なんかずるいなぁ…
「誤解を与えたかもしれません」じゃなくて「充分誤解を与える文」だと思うし.
それに問題を分けて考えたほうがいいって言っても,結局HPで示されている図の中の「難しくない問題」に挙げられていること自体が前々から言われていることだし.
つまりは多くのヒトがそういった問題を認識した上で,それでも悩んでいるんじゃないのかな?

クオリアを表示するロボットを作ることによってこの問題の回答例を近い将来示したいと思っています。」ってあたりが主観的体験であるクオリアを表示できるのか?っていう疑問をさらに投げかけている気がするし…

投稿者 CopyCat : 2005年09月14日 03:18

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